石像のワニに追われ、追い詰められて 倒れてそれから…目を開けると従兄がいたのだった。「大丈夫かい?」心配そうな従兄弟の声「・・・」 「倒れて 気をうしなってたんだ?頭をうってない?」「ええ?」「大丈夫かい?気分は?吐き気とかはないかい?」従兄が心配そうに尋ねるのだ。「だ、大丈夫だよ」「あれは夢?夢なのかな?」すると、その時にちゃりん 僕の服のポケットから、音がした、古い銀貨 皇帝の顔が刻まれた、古代の銀貨が一枚よく見れば、その銀貨の横顔は あの初老の男の顔 切なげな瞳をした ハドリアヌス帝・・。長い、長い月日の果てに…そうして、時は過ぎ去り、そうして、懐かしいあの情景今もあの時の情景が目に浮かぶ 僕を乗せて、汽笛を鳴らして乗った汽車が走り始めたのだった。今もなお、心を締めつける あの切なげな顔 世界の中心に有りながら、苦悩の中にあった皇帝 孤高の姿の皇帝涙を浮かべた古代の帝国の王者、皇帝の姿 ハドリアヌス帝 壮大な帝国を治め、旅して戦った帝旅の途中で失った人 エジプトのナイル大事な人を想った 居なくなった人を慕う気持ちは誰しも同じだまだ、第一次大戦がはじまる前の時間人々が冷めやらぬ、明るく賑やかな時代にいた頃だった。
あの子.大事な少女を救うために探し求めていた魔道の書水晶に閉じ込められた少女 僕の大事な|幼馴染《おさななじみ》数十年前 魔法が大暴走する事件が起きた大昔 狂暴な魔獣たちを封じるための大魔法の為のもの狂暴な魔獣も大魔法を扱う大魔法使いも‥すでにない 遠い過去の彼方に消えたものしかし・・魔法を放つ装置、魔導書だけは残っていたのだった神殿の地下の奥底に隠されていた魔法を封じていた魔導書盗賊がそれを奪おうとして、大暴走したのだった人々の多くが水晶に貫かれるか 水晶に閉じ込められて‥次には大きな嵐に‥建物も崩壊して‥。何処かに魔導書は消え去り美しい小国の僕の故郷は…そうして滅び去った「マリエ」あの頃まま 僕の綺麗で愛らしい幼馴染の少女僕は彼女を閉じ込めた水晶をそっと撫でる。僕の胸元には彼女がくれたプレゼントの首飾り 紫や緑に紅に様々に色を変える不思議な石 銀細工に飾られたもの長い月日 失われた魔導書 その魔導書をあるいは同じ本を探し求め 月日が過ぎ去って魔法使いの弟子になり 一人前の魔法使いとなってそれから‥次には魔導書を探し求め ようやくそれを手にした。師匠の魔法使いは言ったシリンスよ シリンス お前の持つ魔力では 強力な力を持つ魔導書禁断の魔導書の力を使えば 命はないかもしれないとでも…「もうすぐだよ マリエ 長くなってごめんよ」僕は運命の書を開き 長い呪文を唱えるとパラパラとページはめくれて 黄金色の光を放つ天からの黄金の光に満たされて 水晶は氷のごとく溶けて消えてゆくドサ、ばたりと少女マリエが倒れ込む 他にも生き残った僅かな者達も水晶から解き放たれ解放され‥「こ、此処は? あ、貴方は?おじさんは誰ですか?」「僕は随分と年をとったからね マリエ‥どうか…幸せに」それだけの事をどうにか言葉にして「ああ!」マリエの目の前で僕の身体は風の中に消え去る後には彼女がくれたペンダントだけを残して
僕が初めて、その女の子に 出会ったのは、冬の始めの小春日和の病棟にある 小さな中庭… 建物の中にある、ちょっとした緑やベンチがある場所 建物の中からは、ガラスの壁でよく見える 「泣かないで、仕方ないの 行かなきゃダメ…じゃないと私みたいに道を失ない...さ迷う事になるから」 「きっとまた、ずっと先になるけど、パパやママに会えるわ…」 「大丈夫よ」 女の子は自分より、泣きじゃくってる年下の女の子の頭を撫でながら、何やら優しく諭していた やがて、涙を浮かべたまま 顔を上げて、諭されていた小さな女の子は、こっくりと頷き そして、その姿はゆっくりと薄くなり消えた 「良かった…まだずっとママ、パパ お母さんやお父さんの傍に いたかったと思うけどね」 「もう身体を無くしたから.行くべき処に行かなくては…」 ふぅ…とため息をつく女の子 僕は恐る恐るガラスの扉を開き、中庭の女の子に声をかけた 「こ、こんにちわ!」 「あら…うふふ 初めまして、こんにちわ」 「私は遥(はるか)よ」 「あの…僕は翔(しょう)だよ 遥ちゃんはとても綺麗で」 僕はドキドキしながら 彼女の顔を見ながら、次の言葉を探す…が 何も思いつかない 「今の見てた? 翔ちゃん」 「あ、うん…」 「あの小さな女の子はね 重い病気で先月ね、死んじゃたの」 「悲しくて、まだママやパパ お母さんやお父さんの傍にいたいのに… まだ小さいのに…」 「でも、体が無くなったから、まだ還る道が見えて、そこに行けるなら、逝かないと」 「私みたいに道が見えなくなり 還れなくなっちやう…」 「え?何?」僕は尋ねた 「長い話よ」 遥ちゃんはため息交じりに言う 「聞かせて」 僕は言葉を重ねて聞いてみた。 「これは私の昔話なの」 遥ちゃんは僕を見て微笑して話を続けた 「私の両親は離婚したの」 「二人はそれぞれ違う大きな会社の重役…毎日忙しくて、帰って来るのは大抵、夜中だった」 「お母さんが私の弟を連れて行って遠い外国の子会社に行き…それっきり会った事はないわ」 「お父さんは、私が助からない病気で入院したけど 逢いに来てくれたのは」 「月に一度か二度、いる時間は数十分」 「来れない月も多かったな」 「携帯のメールは、よく来たけど…」 「お父さんの会
星空を見つめながら遥ちゃんは言う涙が一筋、遥ちゃんの瞳から零れて落ちるそれから、くるんとこちらの方を見るなり微笑んだ 「うふふ…翔ちゃんが欲しかったのは このジュース」いつの間にか、その手にジュースが握られていた。「あ!」「あげるね…うふふ」「さあ、この時間は此処は寒いわ 病気の翔ちゃんに良くない」そう言って僕の手を握って 僕を病室へと連れて行った。その小さな手は不思議な事にとても暖かい「じやあ、お休みなさい、翔ちゃん」手を振り、扉を閉める 遥ちゃんそっと扉を開けてみると そこには誰の姿もなかった次の日…検査と治療の為に僕は車椅子に乗せられ 治療用の病棟に向かう…看護師さん達の集まる スティーションを通り過ぎる間際に会話が聞こえた「ねぇ…夕べの話、聞いた?」「ええ!そうよ、またよね」「病院の優しい女の子の幽霊の話 ずっと、前から噂になってるわよ…」病気で家からこの病院に連れて来られ 不安でいっぱいの小さな子供達を慰めたりとか…「私!その女の子見たわ」「病室に入ると まだ小さくて字が読めない子供の為に絵本を読んで聞かせていた」「私と目が合うと、にっこり微笑んだわ」「そして、姿が消えたの 絵本だけが椅子の上に…」会話を聞きながら、僕は通り過ぎる それからクリスマスの時期を迎え…次の正月桜の季節…青空の美しい夏の季節落ち葉の秋の季節…僕はずっと入院したまま 治療を受けていた。「良好ですね…この治療は、まだ始まったばかりですが、効果を上げてます」「有難うございます!先生」僕の両親は嬉しそうに医師の先生に御礼を言ったのだった。「じゃあ翔ちゃん また、ママは必ず来るから…欲しい物は?」母親、母さんの言葉に 僕は首を横にふる「わかったわ、何かあったら 私の携帯のスマホに電話してね」「私の携帯でも良からね」 父、父親 お父さんは二つ折りの携帯を見せながら言う「パパ、そろそろ、スマホに変えたら?」 「忙しいからね、また、今度な、ママ」「はい、はい、じゃあね、またね」二人、両親が去った後 しばらく後に、コンコンとノックの音「どうぞ」「翔ちやん、遊びにきちゃった 眠くない、体は大丈夫? 」「うん!待ってたよ遥ちゃん 君の言った通りになった、有難う」「うふ…良か
「翔ちゃん…あのね...退院して元気になる子は 私の事をやかて忘れてしまうの…」「だから、翔ちゃんは早く元気になって、大事なお母さんやお父さん達と住んでる家に帰ってまた学校のお友達と遊んだり、一緒に勉強しなきゃね」遥ちゃん…遥ちゃんは僕にそう言った。 やかてクリスマスの時期を迎えた退院が決まり、僕は退院した…それからお父さんの車に乗り込む前に 病院の方を見ると病棟の窓辺から 遥ちゃんが微笑み、手を振って消えた それから…六十年以上の歳月が過ぎ去った…。「うふ…新しい絵本が病棟の図書館に入ったから 201号室の綾子ちゃんに読んで聞かせてあげよう」「うふふ」 「遥ちゃん…」「え!」呼ばれて振り返えると 其処には1人の老人が立っていたのだった。「あの…誰? どなたですか?私が見えるの?」「私の姿は子供しか見えないのに それに何故、私の名前を知ってるの?」 「ふふ…僕は幽霊だからね」「幽霊の遥ちゃんが何でも知ってるように知っている」「なんて…嘘、ウソだよ 昔、君にこの病棟で会った翔だよ」「覚えているかい?こんなお爺さんになってしまったがね」「あ…翔ちゃんなの? どうして私の事を覚えてるの?」「退院した子供は忘れてしまうのに」「忘れないように、毎日毎日 死ぬまで日記に書き続けた」「こんな綺麗な可愛い女の子を忘れるのは勿体ないから」「翔ちゃん…」 「迎えに来たよ 見失った道なら、今の僕には解るから」「遥ちゃん一緒に還ろうね」「え…」「遥ちゃん!私達もお迎えに来たよ!」「あ…舞ちゃん絵里ちゃん、連ちゃん… 他にも、ああ!みんな来たのね」子供達が頷く「さあ…遥ちゃんのお父さん達も待ってるから」「うん…有難う、翔ちゃん」手を握って空を見上げる 青い空に雲が現れ、雪が降り始める…季節はクリスマス病棟にはクリスマスツリーが飾られていた…。 クリスマスに捧げる1人の女の子の御話メリークリスマス 祝福と良き事が在ります事を…FIN
夜の祭り、七夕祭りの夜に貴方は 恥ずかしそうに、はにかむように笑っていたんだ。七夕の竹に綺麗に飾りつけた色の鮮やかな短冊達が穏やかな夜風、夜の風にそよめき…揺れいた。その時には、更々と重なり合う音が鳴っていた。「また…来年も会えるといいな…」「明日からは就職で東京に行くのよね」浴衣姿の貴方は言葉を紡ぐ。「東京に会いに行きたいねでも、ごめんね、入院中の母さんの世話があるから」「分かっている、きっと必ずメールするね」「うん、約束」「この前、学校の先生に教わったネット電話スカイプだったけ、スカイプ、あれをやってみょうか?どうだい?」「スカイプね、ネット電話のやり方がまだ上手く出来ないわ」「大丈夫、お互いに無事に設定が出来たら、沢山、話せそうだよ、大丈夫だから」「うん」彼女は笑う…それは楽しそうに「向こうの…都会の東京の話を沢山ね、聞きたいわ」「沢山ね…沢山、きっと話すよ」僕は笑う「また来年…新年は僕は、きっとね、仕事の関係で戻って来れないから」「来年の夏に夏祭りに、この七夕祭りに…また」「ええ」彼女は笑う…。そして、ほんのりと浮かぶ彼女の瞳の涙 とても、とても綺麗な涙だった。淡い恋、それが僕たちの恋の約束
大きな壁が一つ… 鉄条網にとり囲まれている。壁、父親と幼い少女が壁を見つめ 少女は涙を浮かべて一言「ママ」と呟くそう、第二次大戦が終結してドイツ この国は二つに分けられた 引き裂かれた故国麗しい広場だった場所…広場幼い少女は父親の大きな手を握りしめる 「ママは壁の向こうにいるの?」父親は帽子を直してから、淋しそうにうなずく「兄ちゃんも…?」ため息が一つこぼれる。 美しく豊かな国 先のもう一つの戦いに 大恐慌に…人々の心は荒れ果てナチの台頭、大虐殺… 長い戦争新婚時代を過ごした 美しいドレスデンの街は粉々に…子供の頃に訪れた 華やかで麗しいパリの街は 今はどうなったか人々は、未だに戦いの傷痕に 苦しんでいる。傷痕だけでなく 時に明日のパンも無事に手に出来るか ユダヤ人の妻ゆえに愛する妻や子供らと 各地を転々として…隠れように過ごした日子供の頃の 懐かしい友人たち 三人の友人は、今はどうなったか? 懐かしき、青春の日々ユダヤ人の友人は?彼は生き延びたのか?そして…今度はナチに協力した として、連れて行かれたドイツの幼馴染みの友人は?彼はどうなった?同じく学園で過ごした 留学生のアメリカ育ちの日系人… 伝え聞いた話だと 本国に帰還後 彼は軍に入り激戦地に…学者か教師になりたいと 言ってた彼は、何故、軍に?そして どちらの国の?どちらも彼の故郷だというに楽しかった学園の寮での 生活彼らは無事か?牢獄に繋がれる事など、幸いなかったものの明日の行く末など わからぬ身の上愛しい家族とは引き裂かれ ここは…壁の中愛しい人は壁の向こうに向こうから大きな銃声が響き渡る 壁から、逃れようとした 人々が、警備の兵士に撃ち殺される話など よくある話だ…幼い娘は、銃声におびえ、父親にしがみつく「大丈夫だよ」 彼ら親子は 何処かに立ち去り 長い月日 壁が壊される日まで鉄のカーテンと呼ばれる ベルリンの壁は在りつづけた 彼は、 ユダヤ人である妻の優しげな笑顔を思い出す…歴史は幾重にも繰り返す人は嘆きを繰り返しながら 希望を探すそれは 此処以外でも・・ どこでも 起こりうるのだから
大事な恋を失い そして仕事を失敗して、今では、琥珀色の酒におぼれて、人生を踏み間違えた男路地で寝ていると 男が一人、立つていた。「ん? なんだね、アンタ」「時間の魔法をかけようか 過去に戻って 人生をやり直してみないかね…代価は、そう、手に持っいる琥珀色の酒瓶1つ」男は笑う一瞬、姿が変わり、男の姿は魔法使いのローブ姿にも見えた「なんだい? まったく夢のような話だが そんな話はある訳がない、お前さんも酔っているんだね」「さて それはどうかな?」男は笑う「以前、小川で溺れかけた白いネコを助けただろう? あれは大事な友達のネコなんだ」「それ、はじめようか?」「あん?」「やり直すがいい、過去に戻り、自分の人生を!」男がそう言うと、何かの呪文を唱え、男は足元に現れた、魔法陣の光に包まれる。ぐるり、何かが酔いどれの男の周りを回転する いや、回転してるのは男自身かも知れない気がつくと雪の舞う街の中 いや、ここは 昔住んでいた街、今、現在の街じゃない自分の服も立派なスーツ姿だった。するりと一人の少女が彼の腕を捕らえて笑う「あ…アンナ?」 「どうしたのヨーゼフ」「結婚式の予約に行かないの?早く行きましょうよ」あるはずのはない、夢を見ている、これは過去の時間 失ったしまった恋の相手ある日 姿を消してしまった、私の愛しいアンナが其処にいた。風に乗って、誰かの声、囁く声過去の失敗の原因は分かっているだろう?間違えなければ、幸福な人生だ。大丈夫だ。
ざっと谷から降りてきて 行く手を阻む者 「盗賊か?」 「ああ!金目のものや女をもらう!」「野郎ども!」「おお!」「いくぜ!」だが 姫の御付きの者たちは手練れぞろい 簡単になぎ倒される。「我らに手を出そうとは、100年早いわ!」護衛の武者の一人が勝ち誇ったように言う「いくぞ!いまだ!」隠れ潜んでいた盗賊たちそこに隙をつくように後ろから 盗賊が襲いかかり 輿の中をバッと開ける 姫の顔を見るなり「高値がつきそうだな! 身代金か売り飛ばすか!」だが、そこに 「ぎゃああ!」「きゃあ!」 「姫!」 輿に襲いかかった盗賊を、一刀のもとに切り捨てられたのだった。 「あ!」先程の姫を見つめていた若武者 榊原 夕なぎ 「大丈夫です お守りいたします!」「有難う」姫は彼をみつめて、頬が赤くなるどうしよう、ドキドキしているわ どうしてかしら? きっと 盗賊たちに襲われそうになったからかしらねそして谷の上、木々の間から別の者たちが見つめている 一行を狙う者たち 矢を構えて 弓の弦に手をかける者 「待て!」 「? なぜ止めるのですか?」「ここでは まずい もう少し先だ」 「しかし」「ここでは奴等は木々の間に隠れてしまうだろうから」 「なるほど」 「まったく、奴等もこざかしい! 同盟など組んで、 我らの国を脅かすことになろうとはな」「いやはや まったくで ございまする」「西の国の国主の息子の一人・・養子にだされた方だが、我らの姫が嫁に行くことになってはいるのだが、話がこじれているようだ どうしたものか」「本来なら、我々の姫が、西の国の国主の花嫁となるはずだったのだが、あるいは側室では少々、立場が弱い」「なんの・・ひとまずは、あの姫さえ、消えてくれれば、それでよい」「実は間者も一行の中に潜ませておる」 「それはそれは、よい」 ニヤリと笑う暗殺者たち夕刻近くに、宿となる屋敷に到着する「ようこそ、おいで頂きまして・・たいした おもてなし も出来ませんが 何卒 ごゆるりとおくつろぎください 綾姫さま」 屋敷の主たる、大商人は、姫達に言う。大きな屋敷だが、飾り気のない造りである 離れの特別な小館に案内され ほっと一息をつく夕膳に用意されたのは 焼き魚と魚の煮付け
その頃、婚ぎ先の花婿の国では「ああ!若様!若様ああ!」「若!!」「なんたる事だ! 若様が亡くなられた これから花嫁をお迎えするはずだったのに」「流行病さえなければ、なんたる事だ!」まわりの者たちが、若き未来の主の骸を、取り囲む嘆きと悲嘆の声そっと、離れた場所から、その若様の御付きの者が見つめている。若い武者、小姓、護衛の一人 年の頃は その若様と変わらない。よい顔立ちの美貌そして、影武者や毒見役も彼の仕事のひとつだった風格のある老人、彼が、じいや、一人の男に耳打ちをした。「あい(はい)、承知いたしました」「籐野 空也よ、そちがしばらくの間は、若様じゃ」目を赤く泣き腫らしながら一人の老人が言ったのだった。「!それは どうゆう事でございましょうや?」「養子に出した弟君が戻られるまでじゃ」「弟君は、子のない親戚筋にぜひにと頼まれたが、こうなったっては仕方の無い事だ」「なにがなんでも、戻っていただく」「!」「弟君が戻られたら そちは遠出の最中に馬から落ちて亡くなったことにするそして、代わりに弟君に、花嫁と再び婚姻していただく」「親戚筋の領主は、前々から、空也、そちを欲しがっておった。あのときは 断ったが…いや、であれば…ほとぼりがさめて、戻ってきてもよしあるいは、他の主を捜してやろう、それとも別に望みがあれば叶えてやろう」「そちには、無理を頼むが、よろしく頼むぞ 空也」一人の風格のある老人が声をかける、この国の主早くに息子を亡くし 今また孫を失ったのだ。目元には涙が浮かんでいる。「!・・しかし御前さま、殿さま、それよりも弟君の帰還をお待ちしてからのほうがよいのでは、ありませんか?」御前さまと呼ばれた男はおもむろに答える「空也よ、他に手だてがない、どうしてもこの同盟は必要なのじゃ」「わかりました、そのお役目承ります」籐野 空也は 頭(こうべ)をたれた。「一大事でございます!」誰かが 慌てふためき、飛び込んできた。ささっと、おつきの者たちをはじめ、まわりの者たちが、若君の遺体を隠す。「何事だ?どうしたというのだ?」「我々の同盟を心よく思わぬ者たちが、婚礼の花嫁一行を襲うと!たった今 密偵から知らせが参りました!」「なんと!」「空也よ、そちが行くのじゃ、影武者の若君として、なんとしても、姫君を守るのじゃ!」
前世なんて ありうるの?まだ中学生の葉月(はずき)は思う「どうしようかな〜どうせ 恋の告白なんて ダメ、ダメだもん」学校の廊下 彼をそっと見つめてる 少女 風がふいて、窓から見える校庭の木々がゆれていた。彼女はまだ知らない、前世で叶わなかった恋を 今度は、この世界で それは日本の戦国の世裏切りと戦の時代 そして、欲しいものは、力で全てを奪い去る。そんな中、小国の姫である、まだうら若き乙女は思うこの時代、いえ、国の領主の娘の婚姻は 政治の道具であるのは 国の行く末を思えば、当然のことだけどでも、やはり、相手はどんな方か、気になるのは当然のこと多くの奥方がいる年寄りかも知れないし あるいは 乱暴で怖い人かも知れない 怖い恐ろしい人かも知れない。それとも、そう 物語に出てくるような素敵な殿方かもそっと、ため息をつく藤崎家の姫として…私は誰に嫁ぐことになるのかしら? 「綾姫」呼ばれて、彼女は振り返る 「どうしたの?何かあった?」急ぎ呼ばれて、着物を整えてから 小走りに廊下を走り そして、皆が待つ、大広間へと向かう。「綾姫」「どうされたのですか?」「西にある、小国の領主の息子が花嫁を捜してる」「え?」「領主の息子の名は 前橋 延高(まえばしのぶたか)」「西の小国は、豊かで 強固な軍を持っている 大事なお役目ぞ」「私を?ですか?」「そうだ」何の感慨もなく、政治の駆け引きで、トントン拍子に話は進み 1月も立たぬ間に、婚礼の準備は整えられる「綾姫様、綺麗な着物ですわね」「・・・・」ぼんやりして、心はここにあらずの姫「そのように不安になられるのも、無理のないですが、綾姫?」「大丈夫でございますか?綾姫?」「え? あ、大丈夫」 そうね、大丈夫 聞いた評判は、そう悪くはなかったのですし 心配はいらないわね…。 そう、きっと大丈夫心の中で、言い聞かせるように、まだ少女の姫君は思う。「姫さま…」そっと障子の向こう側を見る…夕刻が過ぎて、夜の闇に染まり 今度は 夜の星達が輝いている。去年の七夕のときに、祈ったことを思い出す よき人と巡りあえますように…。 そののちの事…。旅立ちの日、輿(こし)に揺られて、輿から覗き見て 後ろを見つめる 遠ざかる生まれ育った城が小さく見える。先程
大事な恋を失い そして仕事を失敗して、今では、琥珀色の酒におぼれて、人生を踏み間違えた男路地で寝ていると 男が一人、立つていた。「ん? なんだね、アンタ」「時間の魔法をかけようか 過去に戻って 人生をやり直してみないかね…代価は、そう、手に持っいる琥珀色の酒瓶1つ」男は笑う一瞬、姿が変わり、男の姿は魔法使いのローブ姿にも見えた「なんだい? まったく夢のような話だが そんな話はある訳がない、お前さんも酔っているんだね」「さて それはどうかな?」男は笑う「以前、小川で溺れかけた白いネコを助けただろう? あれは大事な友達のネコなんだ」「それ、はじめようか?」「あん?」「やり直すがいい、過去に戻り、自分の人生を!」男がそう言うと、何かの呪文を唱え、男は足元に現れた、魔法陣の光に包まれる。ぐるり、何かが酔いどれの男の周りを回転する いや、回転してるのは男自身かも知れない気がつくと雪の舞う街の中 いや、ここは 昔住んでいた街、今、現在の街じゃない自分の服も立派なスーツ姿だった。するりと一人の少女が彼の腕を捕らえて笑う「あ…アンナ?」 「どうしたのヨーゼフ」「結婚式の予約に行かないの?早く行きましょうよ」あるはずのはない、夢を見ている、これは過去の時間 失ったしまった恋の相手ある日 姿を消してしまった、私の愛しいアンナが其処にいた。風に乗って、誰かの声、囁く声過去の失敗の原因は分かっているだろう?間違えなければ、幸福な人生だ。大丈夫だ。
大きな壁が一つ… 鉄条網にとり囲まれている。壁、父親と幼い少女が壁を見つめ 少女は涙を浮かべて一言「ママ」と呟くそう、第二次大戦が終結してドイツ この国は二つに分けられた 引き裂かれた故国麗しい広場だった場所…広場幼い少女は父親の大きな手を握りしめる 「ママは壁の向こうにいるの?」父親は帽子を直してから、淋しそうにうなずく「兄ちゃんも…?」ため息が一つこぼれる。 美しく豊かな国 先のもう一つの戦いに 大恐慌に…人々の心は荒れ果てナチの台頭、大虐殺… 長い戦争新婚時代を過ごした 美しいドレスデンの街は粉々に…子供の頃に訪れた 華やかで麗しいパリの街は 今はどうなったか人々は、未だに戦いの傷痕に 苦しんでいる。傷痕だけでなく 時に明日のパンも無事に手に出来るか ユダヤ人の妻ゆえに愛する妻や子供らと 各地を転々として…隠れように過ごした日子供の頃の 懐かしい友人たち 三人の友人は、今はどうなったか? 懐かしき、青春の日々ユダヤ人の友人は?彼は生き延びたのか?そして…今度はナチに協力した として、連れて行かれたドイツの幼馴染みの友人は?彼はどうなった?同じく学園で過ごした 留学生のアメリカ育ちの日系人… 伝え聞いた話だと 本国に帰還後 彼は軍に入り激戦地に…学者か教師になりたいと 言ってた彼は、何故、軍に?そして どちらの国の?どちらも彼の故郷だというに楽しかった学園の寮での 生活彼らは無事か?牢獄に繋がれる事など、幸いなかったものの明日の行く末など わからぬ身の上愛しい家族とは引き裂かれ ここは…壁の中愛しい人は壁の向こうに向こうから大きな銃声が響き渡る 壁から、逃れようとした 人々が、警備の兵士に撃ち殺される話など よくある話だ…幼い娘は、銃声におびえ、父親にしがみつく「大丈夫だよ」 彼ら親子は 何処かに立ち去り 長い月日 壁が壊される日まで鉄のカーテンと呼ばれる ベルリンの壁は在りつづけた 彼は、 ユダヤ人である妻の優しげな笑顔を思い出す…歴史は幾重にも繰り返す人は嘆きを繰り返しながら 希望を探すそれは 此処以外でも・・ どこでも 起こりうるのだから
夜の祭り、七夕祭りの夜に貴方は 恥ずかしそうに、はにかむように笑っていたんだ。七夕の竹に綺麗に飾りつけた色の鮮やかな短冊達が穏やかな夜風、夜の風にそよめき…揺れいた。その時には、更々と重なり合う音が鳴っていた。「また…来年も会えるといいな…」「明日からは就職で東京に行くのよね」浴衣姿の貴方は言葉を紡ぐ。「東京に会いに行きたいねでも、ごめんね、入院中の母さんの世話があるから」「分かっている、きっと必ずメールするね」「うん、約束」「この前、学校の先生に教わったネット電話スカイプだったけ、スカイプ、あれをやってみょうか?どうだい?」「スカイプね、ネット電話のやり方がまだ上手く出来ないわ」「大丈夫、お互いに無事に設定が出来たら、沢山、話せそうだよ、大丈夫だから」「うん」彼女は笑う…それは楽しそうに「向こうの…都会の東京の話を沢山ね、聞きたいわ」「沢山ね…沢山、きっと話すよ」僕は笑う「また来年…新年は僕は、きっとね、仕事の関係で戻って来れないから」「来年の夏に夏祭りに、この七夕祭りに…また」「ええ」彼女は笑う…。そして、ほんのりと浮かぶ彼女の瞳の涙 とても、とても綺麗な涙だった。淡い恋、それが僕たちの恋の約束
「翔ちゃん…あのね...退院して元気になる子は 私の事をやかて忘れてしまうの…」「だから、翔ちゃんは早く元気になって、大事なお母さんやお父さん達と住んでる家に帰ってまた学校のお友達と遊んだり、一緒に勉強しなきゃね」遥ちゃん…遥ちゃんは僕にそう言った。 やかてクリスマスの時期を迎えた退院が決まり、僕は退院した…それからお父さんの車に乗り込む前に 病院の方を見ると病棟の窓辺から 遥ちゃんが微笑み、手を振って消えた それから…六十年以上の歳月が過ぎ去った…。「うふ…新しい絵本が病棟の図書館に入ったから 201号室の綾子ちゃんに読んで聞かせてあげよう」「うふふ」 「遥ちゃん…」「え!」呼ばれて振り返えると 其処には1人の老人が立っていたのだった。「あの…誰? どなたですか?私が見えるの?」「私の姿は子供しか見えないのに それに何故、私の名前を知ってるの?」 「ふふ…僕は幽霊だからね」「幽霊の遥ちゃんが何でも知ってるように知っている」「なんて…嘘、ウソだよ 昔、君にこの病棟で会った翔だよ」「覚えているかい?こんなお爺さんになってしまったがね」「あ…翔ちゃんなの? どうして私の事を覚えてるの?」「退院した子供は忘れてしまうのに」「忘れないように、毎日毎日 死ぬまで日記に書き続けた」「こんな綺麗な可愛い女の子を忘れるのは勿体ないから」「翔ちゃん…」 「迎えに来たよ 見失った道なら、今の僕には解るから」「遥ちゃん一緒に還ろうね」「え…」「遥ちゃん!私達もお迎えに来たよ!」「あ…舞ちゃん絵里ちゃん、連ちゃん… 他にも、ああ!みんな来たのね」子供達が頷く「さあ…遥ちゃんのお父さん達も待ってるから」「うん…有難う、翔ちゃん」手を握って空を見上げる 青い空に雲が現れ、雪が降り始める…季節はクリスマス病棟にはクリスマスツリーが飾られていた…。 クリスマスに捧げる1人の女の子の御話メリークリスマス 祝福と良き事が在ります事を…FIN
星空を見つめながら遥ちゃんは言う涙が一筋、遥ちゃんの瞳から零れて落ちるそれから、くるんとこちらの方を見るなり微笑んだ 「うふふ…翔ちゃんが欲しかったのは このジュース」いつの間にか、その手にジュースが握られていた。「あ!」「あげるね…うふふ」「さあ、この時間は此処は寒いわ 病気の翔ちゃんに良くない」そう言って僕の手を握って 僕を病室へと連れて行った。その小さな手は不思議な事にとても暖かい「じやあ、お休みなさい、翔ちゃん」手を振り、扉を閉める 遥ちゃんそっと扉を開けてみると そこには誰の姿もなかった次の日…検査と治療の為に僕は車椅子に乗せられ 治療用の病棟に向かう…看護師さん達の集まる スティーションを通り過ぎる間際に会話が聞こえた「ねぇ…夕べの話、聞いた?」「ええ!そうよ、またよね」「病院の優しい女の子の幽霊の話 ずっと、前から噂になってるわよ…」病気で家からこの病院に連れて来られ 不安でいっぱいの小さな子供達を慰めたりとか…「私!その女の子見たわ」「病室に入ると まだ小さくて字が読めない子供の為に絵本を読んで聞かせていた」「私と目が合うと、にっこり微笑んだわ」「そして、姿が消えたの 絵本だけが椅子の上に…」会話を聞きながら、僕は通り過ぎる それからクリスマスの時期を迎え…次の正月桜の季節…青空の美しい夏の季節落ち葉の秋の季節…僕はずっと入院したまま 治療を受けていた。「良好ですね…この治療は、まだ始まったばかりですが、効果を上げてます」「有難うございます!先生」僕の両親は嬉しそうに医師の先生に御礼を言ったのだった。「じゃあ翔ちゃん また、ママは必ず来るから…欲しい物は?」母親、母さんの言葉に 僕は首を横にふる「わかったわ、何かあったら 私の携帯のスマホに電話してね」「私の携帯でも良からね」 父、父親 お父さんは二つ折りの携帯を見せながら言う「パパ、そろそろ、スマホに変えたら?」 「忙しいからね、また、今度な、ママ」「はい、はい、じゃあね、またね」二人、両親が去った後 しばらく後に、コンコンとノックの音「どうぞ」「翔ちやん、遊びにきちゃった 眠くない、体は大丈夫? 」「うん!待ってたよ遥ちゃん 君の言った通りになった、有難う」「うふ…良か
僕が初めて、その女の子に 出会ったのは、冬の始めの小春日和の病棟にある 小さな中庭… 建物の中にある、ちょっとした緑やベンチがある場所 建物の中からは、ガラスの壁でよく見える 「泣かないで、仕方ないの 行かなきゃダメ…じゃないと私みたいに道を失ない...さ迷う事になるから」 「きっとまた、ずっと先になるけど、パパやママに会えるわ…」 「大丈夫よ」 女の子は自分より、泣きじゃくってる年下の女の子の頭を撫でながら、何やら優しく諭していた やがて、涙を浮かべたまま 顔を上げて、諭されていた小さな女の子は、こっくりと頷き そして、その姿はゆっくりと薄くなり消えた 「良かった…まだずっとママ、パパ お母さんやお父さんの傍に いたかったと思うけどね」 「もう身体を無くしたから.行くべき処に行かなくては…」 ふぅ…とため息をつく女の子 僕は恐る恐るガラスの扉を開き、中庭の女の子に声をかけた 「こ、こんにちわ!」 「あら…うふふ 初めまして、こんにちわ」 「私は遥(はるか)よ」 「あの…僕は翔(しょう)だよ 遥ちゃんはとても綺麗で」 僕はドキドキしながら 彼女の顔を見ながら、次の言葉を探す…が 何も思いつかない 「今の見てた? 翔ちゃん」 「あ、うん…」 「あの小さな女の子はね 重い病気で先月ね、死んじゃたの」 「悲しくて、まだママやパパ お母さんやお父さんの傍にいたいのに… まだ小さいのに…」 「でも、体が無くなったから、まだ還る道が見えて、そこに行けるなら、逝かないと」 「私みたいに道が見えなくなり 還れなくなっちやう…」 「え?何?」僕は尋ねた 「長い話よ」 遥ちゃんはため息交じりに言う 「聞かせて」 僕は言葉を重ねて聞いてみた。 「これは私の昔話なの」 遥ちゃんは僕を見て微笑して話を続けた 「私の両親は離婚したの」 「二人はそれぞれ違う大きな会社の重役…毎日忙しくて、帰って来るのは大抵、夜中だった」 「お母さんが私の弟を連れて行って遠い外国の子会社に行き…それっきり会った事はないわ」 「お父さんは、私が助からない病気で入院したけど 逢いに来てくれたのは」 「月に一度か二度、いる時間は数十分」 「来れない月も多かったな」 「携帯のメールは、よく来たけど…」 「お父さんの会